「亀の如し」と枕されるお役所仕事も、今年の市役所はひと味違う。採用されたばかりの新卒ウサギ君が、意欲まんまん、誰よりも速くをモットーに走り回ったからだ。
市民課に配属されると、毎日早朝から市内を駆けめぐり、死にそうな人の枕元で死亡届を書く。あるいは、結婚届を提出しに来たカップルには、同時に離婚届も渡す。
誰よりも早く、否、速く配転となった先では、予算実行を早める為に、入札前に発注して新聞沙汰になりかけた。もちろん再配転だ。
その後も市立大学の合格発表、市主催コンテストの表彰と、フライングを繰り返して、結局窓際に回された。
そこは昼寝に最高の場所。かくてウサギは、人生最高の場所を誰よりも速く手に入れたそうな。
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第74回タイトル競作参加作品を改稿したものです。提出した作品はこちら(18よりも速く)。