大都会の一角に佇む大邸宅。ここの舞踏会は、最高の狩場、清楚なドレスと優雅な物腰で出陣する。門番Aを笑顔で落とし、Bに賄賂を渡し、Cには知り合いの女から話がつけてある。笑顔と賄賂も彼女の入れ知恵だ。
会場に導かれると、ヤシの林立する庭園の後ろにタキシードの密林が開けた。ここに出席を許されるのは並の男じゃない。その樹液を少し吸うだけで、あたしのような蛾は別世界に舞い上がれる。
長身の男たちの間をシャンパン片手にくぐり抜け、美味しそうな樹を捜し求める。密林は歩くのが難しい。
「お嬢さん、よろしいですか」
「是非、お相手を」
群がってくる男たち。
でも、なにかヘン。第六感が告げる胡散臭さ。警戒して男達を見ると、なによ、同類じゃないの。
寄って来るのは紛い物ばっかし。良くて二高、中には上げ底靴を履いた三低まで。それどころか素性の怪しい寄生植物までいる。ここはジャングルなの?
そのとき私の目はひとりの男に釘付けになった。正真正銘の本物だ。狩人の本能がむくむくと湧き上がる。あたしは彼に最高の笑顔を送った。心臓が高鳴る。
近づいてきた彼は、他の誰にも聞き取れない声で囁いた……。
「遅かったな」
「え?」
「『インカの秘宝』は書斎でなくバスルームだ。さっさとやるぞ」
「ええと、あのう…」
秘宝って先月、大統領官邸から盗まれたアレ?
こんなの想定外よ。ちょっと、ヤバいかも。
その時、あたしのハンドバッグの隅っこに、小さな異物が目に留る。時を措かず、脳内に危険を告げる胡乱な声が渦巻いた。
「正体を現したな。盗聴器に気付かぬとは、馬鹿なスパイ共だ」
これが門番Bだとしたら……賄賂を受け取るとき、私のバッグに盗聴器をつけたのかも。
ヤシの樹上に微かな光が見えた。望遠カメラ? 再び怪しい声が突き刺さった。
「諜報員なんてちょろいものよ。ダミーにひっかかった隙に、秘宝はこっちのもの」
門番にコネをつけてくれた女! あいつなら言い兼ねない。あたしも諜報員も、まとめて騙してくれたわけね。
慌てて意識をゲートに向けると、今度は呟きを感じる。
「二重スパイってわけか。泳がせただけの事はあったな。よし、踏み込むぞ。スパイもろとも一網打尽だ」
門番Aって警察だったの? あたしの笑顔に落ちたふりをして……。
ああ、もうこんがらがって来ちゃった。えっと、Bが実は盗賊で、スパイに罠を仕掛けた主催者って事かしら。そのスパイは2人いて、あたしを仲間だと思ったイイ男と、門番Cを紹介した女で、しかも女は二重スパイ。もしかしたら、面白いかも。
そう考える暇こそあらば、最後にとどめのテレパシー。
「ジャングルジム作戦発動」
ぐらぐらっと地面が動く。
星空に無数の円盤が現れ、大邸宅ごと吊り上る。
「成功!」
にんまり笑った。
あたしは面白いものは根こそぎ奪う主義なのよ。
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第79回タイトル競作参加作品を改稿したものです。提出した作品はこちら(ジャングルの夜13)。