生物学や地質学の多くの証拠が、世界がかつて一体だった事を示唆している。だが、マントル対流すら知られていなかった当時、大陸を具体的に動かすメカニズムをウェーゲナーは完璧には説明できなかった。理論と証拠の両方が揃ってこその学説である。学会の重鎮たちは彼の説を馬鹿にし、不自然な辻褄合わせで説明した。納得できない彼は自説を本として出版し、新しい証拠を集めては改訂を重ねた。その執念が実り、彼の死の数十年後に大陸移動説は甦った。
量子力学は逆のケースだ。ボーアやハイゼンベルクといった学会の巨星たちがアインシュタインを何度論破しても、「神がサイコロを振るとは信じられない」と言い切ったこの大科学者を納得させるのは不可能だった。ボーアはそれでも良しとした。というのも、碩学が最後まで立ちはだかったからこそ量子力学は堅固な学問となったのだから。
第三のパターンもある。バイオ先端企業に勤めるA子は、もう何年も進化論に関する実験を重ねている。
自分に相応しい最高のパートナーを求めているのに、選んでしまうのはハズレばかりだそうだ。
「種に保存本能があるなんて絶対信じないワ」
彼女を納得させる男は現われるだろうか。
—————————————————————
第84回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(納得できない25)