全ての言動が狩られる時代、始めることは常に難しい。巷には閉塞感が満ちている。だからこそ誰かが最初の一歩を踏み出さなければならない。
そこで俺は、空港カウンターで僕の後ろに並んでいた女に振り向いた。
「好きだ。結婚してくれ」
「あんた誰よ」
女は俺から逃げ出すと、別の便のキャンセルを見つけて行ってしまった。
「申し訳ありません。今のが最後のお席でしたので」
女の直後に飛び込んで来た男は飛行機に乗れずに、デートをすっぽかすハメになり、彼の恋人は怒って、不細工な上司とのデートをOKした。
上司は鼻息も荒く、妻に離婚をつきつけ、慰謝料をもらった妻は「こんな金、宇宙の塵にしてやる」と火星に土地を買った。
妻が火星を望遠鏡で覗いていると、植民のため飛来した宇宙船が宇宙ゴミとぶつかる様子が、ちょうど映った。
「大変!」
妻の通報でさっそく救助ロケットが差し向けられ、八本と二本の手は固く結ばれ、宇宙戦争は未然に防がれた。宇宙人たちが地球人に次々と恋してしまったからだ。
この話の教訓は、要するに、誰だって世界の運命を変えられるってことだ。
そして、この話の最も不幸な点は、俺が今でも独身のままだってことだ。
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第102回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(ドミノの時代17)