目覚まし代わりのラジオが鳴った。
「想定外の……」
最悪の可能性から目を背けるなんて、ダチョウと同じ。……それは私もか。
冷蔵庫に入っていた残りのチーズケーキを手づかみで食べる。
近所の奥さんたちのティータイム。
「一年分買っちゃった……」
買いだめも風評被害も、自分の頭で考えないから起こるのよね。
でも、考え過ぎると気分が悪くなる。思わずプリンとアップルパイを追加注文。
新聞の見出しが目に入る。
「積算量は……」
データがないからって過去は無視するのね。
じゃあ、昨日空にした饅頭のカロリーも積算しなくて良いんだ。
耳が勝手にテレビの音声を拾う。
「パニックを避けるため……」
男の隠しごとって、言い訳はいつもこれ。要するに騙したんでしょ。
チョコレートを衝動買いする。
パソコン画面に文字が踊る。
「濃縮・蓄積はほとんどなく……」
コンセントを抜いた。
甘い。甘すぎ。高濃度の甘さは、もううんざりよ。
私は変わる。
不要な過去を全部消した携帯に、着信が一通。
「現地はまだまだ大変だ……」
こんな時だからこそと、危険を顧みずに出かけたあの人。
無事に帰って来てね。今度は素直に食べられてあげるから。
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第105回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(スイーツ・プリーズ5)