ここに人間が入ったのは何年ぶりなのだろうか。
白い埃の積もった床に足跡を印し、切断されたコードが垂れ下がる聖域を行くと、奥から規則的な機械音が響いてきた。立ち入り禁止の筈なのに、という疑問は、わざわざここに潜入した私にはない。
そんな私も、無数の青い小人たちがせっせと働いているのを見たときは少し驚いた。彼らが病的なほどに美し過ぎるから。しかもベルトコンベアーに乗って流れていくのは、鮮やかな濃紺の結晶だ。
六シアノ鉄酸塩、本来は微毒ながらも非常に有用な物質だ。日本でも古来から顔料として用いられ、紺青、ベロ藍などと呼ばれた。動物がそれを摂取したあとの糞を小人たちが長い年月をかけて精錬し、結晶させる。それは、この地域にしかない力を持っている。
一糸乱れぬ動きが止まった。右往左往する小人たちを蹴散らして、一番大きな結晶を素手でつかむ。
私にとっては、至高の宝石。迷うことなく飲み込んだ。
体が熱い。結晶が脈動を始め、腹のあたりが衣服を透かして、ぼうっと青く光っている。
禁止区域の外へと、ゆっくり歩き出す。
もう私を止めることのできるものはない。まず最初の行先は、隠れてのうのうと生きているあいつらだ。
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第106回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(結晶15)