ひらひらと、花びらが舞い落ちてきた。
寒の戻りで長い間がんばっていた公園の桜も、そろそろ散り始めている。
もう、何年目になるだろう。彩音と初めて出会ったのも、桜の季節だった。
「とうとう今年は、いっしょに花見ができなかった」
と電話で愚痴を言うと、
「また、来年見ればいいじゃねえか」
と暢気な声が、海の向こうから帰ってきた。「来年だって、再来年だって、一生死ぬまでいっしょに見られるって」
「うん」と答えた。
二十歳らしい真っ直ぐな答えはあまりに迷いがなさすぎて、三十歳の私はよけいに不安になる。
本当に、来年あなたの隣に私は並んで立っているだろうか。
ひらひらと、来年咲く桜の幻影が舞い落ちて、雨を待つ渇いた獣のように、私は空を仰ぎ見た。
「CLOSE TO YOU 第4章」
お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164