山の手線の電車に乗り込んですぐに、彼を見つけた。神経質そうな横顔は、私のほうを向いたとたんに、こわばった。 智哉は、私の元婚約者。直前になって結婚をとりやめた相手だ。 「……お久しぶり」 紺のスーツの胸には、かつて…
月: 2012年8月
間違い街角
なぜか毎朝五時になると目を覚ましてしまう。いわゆる時差ボケというものらしい。 起き上がり、ヒゲも剃らずに、上着だけ引っ掛けて、ホテルを出た。 セントパトリック寺院らしき尖塔を仰ぎ、ロックフェラーセンターらしき金色の…
来年咲く花
ひらひらと、花びらが舞い落ちてきた。 寒の戻りで長い間がんばっていた公園の桜も、そろそろ散り始めている。 もう、何年目になるだろう。彩音と初めて出会ったのも、桜の季節だった。 「とうとう今年は、いっしょに花見ができ…
偽物の世界
世界中から集まった入選者たちは、いろんな形、いろんな色、いろんなサイズでできていた。 暇さえあれば、機知とユーモアに富んだ、いかにも文化人的な会話を楽しんでいる。 自己主張と相手への好奇心がよじり合わされ、巨大な渦…
海底の寝心地
彩音がニューヨークに行ってしまってから、一週間が経った。受賞式が終わってからも、スポンサー主催のパーティや雑誌の取材など、いろいろ用事があるものらしい。 スズキ美術の若林さんがついててくれるから大丈夫と思うけれど、突…
踏切にて
あるとウザいけれど、ないと寂しいものが、人生にはいろいろある。 たとえば、踏切。マンハッタンには踏切が見当たらない。地下鉄や高架鉄道しか存在しないから、当然と言えば当然だ。 琴音さんと近所のスーパーに買い物に行くと…
夏休み突発企画
ペンギンフェスタが終わってから、、サイトもすっかり開店休業状態。 一応、せっせと書いてはいるのですが、これは、参加表明している競作企画のための執筆なので、今お出しするわけにはいかないものなのです。 このまま、今年も八月は…
ペンギンフェスタ2012閉幕しました
7月16日に閉幕し、そのあとは「後夜祭」と銘打って名残を惜しんでいた「ペンギンフェスタ2012」ですが、昨日をもって、完全閉幕しました。 今回は、テキスト部門41作品、競作部門11作品、ギャラリー部門11作品が集まりまし…