天冥の標4: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)の感想
アクション満載の前巻から一転して、感覚や観念の世界に深く埋没していくような、哲学的な章。ある意味、求道者が宗教的高みを究めているような趣きだ。作者は、とまどい呆れている読者の顔を想像して、ほくそえんでいるに違いない。前巻の主人公たちの息吹が感じられて、ほっとする。
読了日: 9月4日 著者:小川一水
月下上海の感想
多江子の好きになる男性は、不埒な男、不運な男、不実な男ばかり。それでもなお凛として立つ彼女の魅力は、美貌でも才能でも男まさりな性格でもなく、その聖母性にあるのかもしれない。彼女はきっと、牢屋に手作り弁当を運ぶときが、一番幸せな恋愛をしていたのだろう
読了日: 9月9日 著者:山口恵以子
神去なあなあ夜話の感想
何も特別なことが起こったわけではないが(本当は過去の悲劇とかあわや遭難とか、いろいろあるのだけれど)、淡々とした日常の中で、神去村の一員として受け入れられている勇気の姿にほっとした。方言というのは、字面にすると頭に入ってこないことが多いけれど、しをんさんの書く方言は、音まで伝わってきて、温かい。そして、シゲ婆ちゃんがすごかった。
読了日: 9月13日 著者:三浦しをん
ローマ人の物語 (10) すべての道はローマに通ずの感想
「インフラの父」と呼ばれているローマ人。彼らはインフラを「人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業」として、皇帝のなすべき大切な責務と位置付けていたのだった。道路、橋、上下水道。これらを三十万のローマ軍兵士が作り上げた。軍団、兵站、情報のすみやかな移動システムが、とりもなおさず帝国内に住むすべての人の安全を保障することになった。巻末の美麗なカラー写真を見ると、彼らの成し遂げたことの壮大さに胸がつまる。
読了日: 9月19日 著者:塩野七生
天涯の楽土の感想
「野性時代フロンティア文学賞」受賞作。審査員が書いていることだが、弥生時代の久慈(九州)が舞台というのは既存の作品に例がなく、ジャンルの創設に等しいという。なじみのある地が、壮大なファンタジーの舞台となって広がるのは、得も言われぬ爽快感がある。 村が戦に敗れ、奴隷となって苦役を強いられる隼人。友をかばって自分がいじめの標的にされるが、おりおりに助けてくれる冷たい目をした敵の剣奴・鷹士に対して、あこがれを抱く。自分が「異」なるものであるという孤独。人が人を慕うせつないまでのひたむきさに引き込まれる。
食物、衣服、武器や食器に至るまで、生活描写は、ドラマの考証にも匹敵する細やかさだ。欲を言えば、冒険に旅立ってからのエピソードをもっとたくさん読みたかったが、さらなる旅の続きを予感させるラストに、読者はそれぞれの想像をつむいでいくはずだ。
読了日:9月24日 著者:篠原悠希
ローマ人の物語 (11) 終わりの始まりの感想
哲人皇帝マルクス・アウレリウスの不運には泣ける。ほんとにまじめな人だったのに。彼も軍人皇帝セヴェルスも、不肖の息子を持ったことが一番の悲劇だったが、彼ら自身にも原因はあったのだ。 元老院と軍の不可分な関係がいよいよ崩れてきたことも、ローマの崩壊を加速する。
読了日:10月2日 著者:塩野七生
珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)の感想
コリコリと珈琲を挽きながら謎解きする女性バリスタと常連客の、殺人のない日常系ミステリ。ミステリと言っても、話者の説明にいろいろ仕掛けがあるという、いわゆる叙述系トリックなので、フラストレーションはたまるが、それなりに楽しめる。
読了日:10月6日 著者:岡崎琢磨
古代ローマの食卓の感想
著名な食物史研究家の記した、古代ローマ人の食卓模様。前半は「卵に始まり林檎に終わる」と言われる正餐のメニュー、食事のマナー、ワインや香辛料について。食器やテーブルなども図入りで紹介されて、興味深い。後半は膨大なレシピ集。
読了日:10月13日 著者:パトリックファース
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