今年も、兵庫芸術文化センターにて佐渡裕プロデュースオペラ「蝶々夫人」を観て来ました。実は兵庫芸文では、2006年夏に最初の佐渡プロデュースオペラとして「蝶々夫人」を上演しており、そのときも私は観に行っています(2008年春にも再演)。
当時はそれほど観劇の経験がない私でしたが、生まれて初めてオペラを観て感動で泣きました。
今年の再上演も、当時と同じ故栗山昌良演出で、「あの感動をもう一度」と期待は高まります。特に、第2幕の終わり、障子越しに一晩中立ち尽くす蝶々夫人のシルエットとハミングコーラスの美しさは、まさに至高の美と言って過言ではありません。
「蝶々夫人」の作曲者は、イタリア人ジャコモ・プッチーニ、今年没後100年を迎えました。20世紀初頭に活躍したプッチーニは、「ラ・ボエーム」や「トスカ」などの名作もさることながら、「西部の娘」ではアメリカを、「蝶々夫人」では日本を、また遺作となった「トゥーランドット」では中国と、ヨーロッパから見ると遠い異国をたびたび舞台に据えています。プッチーニ特有の繊細な和声は、東洋的な音楽ととてもよく合っているのです。
もともと、このお話は、ジョン・ルーサー・ロングという米国人が、自分の姉が日本で耳にした話を短編小説にしたものが原型でした。それを戯曲化したものを、たまたまプッチーニが観て心打たれ、すぐに楽屋に飛び込んで「ぜひオペラ化させてほしい」と頼み込んだという逸話があるそうです。
また、プッチーニは、当時の駐伊公使夫人であった大山久子という日本女性に相談に乗ってもらっています。日本の風習を教わったり、母国の歌を歌ってもらい採譜したといいますから、「蝶々夫人」のメロディに織り込まれた「さくらさくら」「お江戸日本橋」など日本の歌は、大山夫人の協力の賜物といえましょう。
今回私が観た公演は、蝶々さん役が迫田美帆、スズキ役が林美智子、ピンカートンとシャープレス役はどちらも米国人のマリオ・ロハスとエドワード・パークス。
迫田美帆さんはのびやかな歌声で、無邪気な15歳の少女をみごとに演じていました。林美智子さんは、「カルメン」のときとは打って変わって抑え目でしたが、演技はさすがの安定感でした。
男性陣もよかったです。ピンカートンの見せ場は、後悔と苦悩を歌った終盤の「さらば愛の家」ですが、これは初演にはなかったアリアだそうで、これがなければ、本当にピンカートンは、ただの嫌われ者に終わってしまいますもんね。
2006年の公演では、屋外のシーンが多く、港を見下ろす高台という雰囲気でしたが、今回は家の中のシーンが多かったような気がします(勘違いだったらごめんなさい)。その分、閉じ込められてどこへもいけない蝶々夫人の苦しみが描けていたようでした。羽根を震わす瀕死の蝶を迫真の演技で演じきった幕切れはみごとでした。
それにしても、幼い子どもがこれほどの舞台で微動だにしないってすごいなあと、孫持ちの私はほんとうに涙腺ゆるみっぱなしでした。
もし東京公演などでまだチケットが取れそうなら、ぜひお出かけください。
また、当サイトの小説コーナーのお遊び企画で、「EWEN」の登場人物が「蝶々夫人」を演じたら、というのもやっていますので、もしよろしければ読んでみてください。結末はハッピーエンドになっております。