世界中から集まった入選者たちは、いろんな形、いろんな色、いろんなサイズでできていた。
暇さえあれば、機知とユーモアに富んだ、いかにも文化人的な会話を楽しんでいる。
自己主張と相手への好奇心がよじり合わされ、巨大な渦巻きとなって俺まで巻き込もうとする。
「きみの絵はすばらしい」
「陰影のつけかたは、グリザイユ技法だね」
「どこで、絵を学んだんだい?」
俺は話しかけられるたびに、適当な英語とあいまいなフランス語で返していた。ときどき誰もわからないと思って、うんと卑猥な日本語も混ぜたら、隅のほうで若林が、思い切り顔をしかめた。
「有名なディーラーや美術館関係者に会える、めったにないチャンスなんです。ここで人脈を作っておくかどうかで、将来が全然違ってくるんですよ」
ああ、小さい頃から父親の姿を見て、よくわかってるよ。絵描きがどんな才能を持っていても、絵を描くだけではやっていけないのは。
営業努力と追従めいた笑顔が、絵の具の次に必要なんだってことは。
四階ホールの奥の一番目立つところに、俺の絵が飾られている。
大賞受賞作 「光」
なんだかウソっぽくて、俺は自分の絵をめちゃくちゃに破りたくなった。
「CLOSE TO YOU 第4章」
お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164