なぜか毎朝五時になると目を覚ましてしまう。いわゆる時差ボケというものらしい。
起き上がり、ヒゲも剃らずに、上着だけ引っ掛けて、ホテルを出た。
セントパトリック寺院らしき尖塔を仰ぎ、ロックフェラーセンターらしき金色のオブジェを横目に眺め、無人のビジネス街をのし歩いて、さあ、ホテルに戻ろうと思うと帰り道がわからない。
街角を曲がるたびに、どんどん正しい方向から反れていくっぽい。腹の突き出たプエルトリコ人の清掃員が「どうした」と話しかけてきた。
「家に戻りたいけど、道がわからないんだ」
「住所は?」
「トーキョー」
彼はいたましげな顔つきになって首を振り、「グッドラック」と言い残して去っていった。
それからずっと闇雲に歩いていると、セントラルパークに突き当たった。
起き出す時刻を見はからって若林に電話し、迎えに来るまでの時間を、公園の遊具に腰かけて緑の森を見て過ごした。
俺はたぶん、人生で幾度も曲がる角を間違えてきたんだろう。
だからこそ、琴音さんに出会えた。そう考えれば、間違えるのも悪くない。
「CLOSE TO YOU 第4章」
お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164