自分が読む側だけでなく、書いて発表する側になってから、自分が今手がけているジャンルの本が読めなくなりました。
私は4年前から「セフィロトの樹の下で」という、ロボットと人間の恋愛ストーリーを書いているため、たとえば、浅見侑さんの「A・Iレボリューション」というコミックをずっと読み返していません。読むと、言葉のはしばしまで影響されそうで(いや、影響はとっくに受けているとは思うのですが)、恐いのです。
このマンガははじめのうちは、造られたばかりのバーミリオンというロボットと博士の娘・翠のほのぼの恋愛ものだと思っていたのですが、途中からキラと榊の確執に重点が移ってしまいました(BL好きにはたまらない展開です)。でも、絵は言うことなく綺麗だし、オトナ買いしても損はないコミックです。
A・Iレボリューション (11) (Princess comics)
実は小説のほうでも、買っていたのに読めなかったロボット恋愛ものがあります。
ハヤカワ文庫の、タニス・リー作、井辻朱美訳の「銀色の恋人」がそれです。
銀色の恋人 (ハヤカワ文庫 SF リ 1-2)
「物語の名手が奏でる少女とロボットのSFラブロマンス」という帯のあおり文句と、少女マンガチックな表紙はアレですが(笑)、中身はかなり本格的なSF小説です。
裕福な家で母親の支配を受けながら育った少女ジェーンは、試作品ロボットのシルヴァーがキャンペーンのために街頭で歌を歌っているのを見て、ひとめで恋に落ちます。
彼女はシルヴァーを買い取るために、自分の持ち物をすべて売り払い、彼と逃避行のような貧しい生活を始めるのですが、シルヴァーのほうも次第にジェーンを「愛する」という感情が芽生えてきて…。
最後は悲劇的な結末に終わるのですが、ラストに「不滅の魂」という問題に触れているのが、さすがキリスト教的思想の強い欧米の作家だと思わされます。
影響を受けまいと思って「セフィロト」が脱稿するまで読むのを我慢していたのですが、やはり読んだとたんに触発されて、「セフィロト」の最終章の文章をふたつみっつ改稿したことは告白しておきます。
今年の五月、タニス・リーが24年ぶりに続編「銀色の愛ふたたび」を発表して、オールドファンを驚かせました。
銀色の愛ふたたび
続編では、前作の主人公ジェーンの手記を読んだローレンという少女が、町でシルヴァーそっくりのロボットに出会う。彼はシルヴァーの記憶を持っているが、新しい人格を持ったロボットで…。
今作では、ラブロマンスに加えて、ロボットたちの人間社会からの離反というテーマを扱っていて、より壮大なドラマへと発展していきますが、やはり最後は魂の問題へと行き着きます。
タニス・リーの作品ははじめて読んだのですが、翻訳ものだということを考慮しても、かなり凝った独自色の強い文体が印象的でした。
下に引用するのは、性的なシーンの描写です。
「世界が溶けうせた。リアルであろうとフェイクであろうと、それは砕けて、無数のきらめくブルーブラックのかけらになった。あたしの中から叫び声がのがれ出た。空に叫ぶ鳥の声のように。そうして何マイルもかなたのしなやかな川の上では、音楽が始まっていた。だれか踊りたい人のための。」(「銀色の愛ふたたび」356ページ)
「セフィロト」を好きになってくださった読者さまには、おすすめの本です。
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自分が書いているジャンルの作品が読めなくなるというの、よく分かります。
好きだから書いてる。それゆえ、他の作品を読めない。…葛藤ですな。
そうやってワタクシも引きこもりサイトになってしまったわけです。わはは。(笑うとこと違う)
nyanさん、分かってくださいますか。
もともと自分の好きなジャンルゆえ、読みたいのですが……影響を受けすぎるのが恐い。落ち込むのがもっと恐い(笑)。私の場合、ネット小説が特に読めないのです。自分と同じ土俵、という過剰な自意識があるのでしょうね。
でもおおいに刺激を受けてイマジネーションが湧く場合もあるので、むずかしいところです。