このコラムは、「ブログコラムス」で「BUTAPENNのTIPS for American Life」というタイトルで連載していたものです。「ブログコラムス」が現在休止中なので、今までの5回分(掲載4回、未掲載1回)を再録していきます。
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第五回 「公園へ行こう!」
アメリカに住んで一番感激したのは、公園がすばらしいことだった。
日本で見られる、鉄道高架下のじめじめと雑草が生えているような、またはマンションの敷地の隅に申し訳程度に作られたような、はたまたあるいは、若いお母さん方の井戸端会議場と化したお砂場に、新参者が気おくれしながらこっそり入っていくような、そんな公園ではない。とにかく広くて、設備が充実していて、走ってころげまわって、一日遊べるところなのである。
比較的狭くて、遊具の奪い合いで子ども同士のトラブルが起きるような公園ももちろんあるが、一方、丘がひとつ丸ごと公園で、乗馬服姿の乗り手を乗せた馬がゆっくり散歩しているような公園も、住宅街の真ん中にあったりする。
休日ともなると、備え付けのベンチとバーベキュー台を使って、ピクニックをしている人たちを見かける。公園はアメリカの家族にとって、とても重要な場所なのだ。
アメリカに間借りしている日本人である私たちも、公園には本当にお世話になった。一度、息子の誕生日パーティをしたことがある。
余談になるが、向こうの人たちにとって、子どものバースデーパーティはそれは一大イベントで、毎年小さい子を持つ母親の悩みのタネである。ファストフード店では、一角を借り切り、三角帽子をかぶった主役があふれるほどのプレゼントに囲まれている光景をしょっちゅう見かける。バースデーパーティ専用の店というのもあって、ゲームセンターやぬいぐるみショーで一定時間子どもを楽しませてくれる。
でも私は、カリフォルニアの青い空の下でのバースデーパーティというのを、ぜひ一度経験したかったのだ。
アニメキャラをバタークリームで描いてもらった特大長方形ケーキと、紙コップ・紙皿、たくさんの飲み物とお菓子を抱えて、公園のベンチに陣取り、紙テーブルクロスや風船で飾りつける。
招待したお友だちは、お母さんの車でぞくぞく到着する。「○時に迎えに来てくださいね」とお母さんと約束してお預かりするのだ。
やがて、パーティの主役であるピザ到着。「○○公園に配達してください」とあらかじめ電話予約しておくだけでよい。
帰りは、食べ残し飲み残したものと、すごい数のプレゼントと包装紙とリボンで、いくつものゴミ袋をかかえて広い公園を幾度も往復するハメになった。とんでもなくバブリーで、めちゃくちゃに疲れて、でも底抜けに明るい体験だった。
アメリカの公園には、日本では見かけないシステムがあった。私たちの住んでいたトーランス市には、「公園リクレーション課」なるものがあって、公園を会場にしたさまざまな教育的なイベントを催してくれていたのだ。
たとえば、子ども向けのテニス教室、水泳教室、タップダンス教室、リトミッククラス。
絵の具をいっぱい使ったお絵かきや工作教室。夏はサマースクールや、寝袋持参のお泊りキャンプなど。
実にさまざまなイベントが公園で行われる。1年に数回、市民に送られてくる公園リクレーション課からの分厚い冊子は、子どものいる親にとっては必需品だ。
特に6月終わりから9月はじめまでの長い夏休み、子どもにどう充実した時間を過ごさせるかは、親にとっては死活問題といってもよい。
これはと思うイベントを見つけたら、申込書といっしょに参加費の金額を書いた小切手を同封して郵送する。もし人気プログラムで抽選に漏れると、小切手は破棄されて戻ってくる仕組みである。
またまた余談だが、アメリカに住んで便利だと思ったのは、郵便を出すときにポストまで行かなくてよいことだ。ハガキや封書を送りたいときは切手を貼って、家の玄関にある郵便受けの表側にクリップで留めておけばよい(小包はちょっと無理だが)。配達に来てくれた郵便職員(ポストマンという言葉は、ポストオフィサーと呼び方が変わった。実際うちの地域の担当は、いつも女性だった)が局まで持っていってくれるのだ。彼らはとても気さくでフレンドリーで、クリスマスにはチップを職員に渡す習慣もあると聞いた。
日本でも学校が週休二日制になって、しかも共働き家庭が増えた。週末や長い休みをどう子どもに過ごさせるかは、大問題だと思う。その受け皿がないのだ。「家庭の責任だ、もっと家族で過ごしなさい」と言われても限度がある。子どもが家の中に閉じこもって、公園で遊んでいる姿を見かけなくなったと嘆く声も聞こえるが、公共がもっと率先して、公園を安価に有効利用するプログラムが必要なのだ。
そういう意味でこの公園リクレーションは、地域の子どもたちが豊かな経験をして育まれる場となるために、おおいに参考になるシステムだと思う。
【おことわり】 この情報は十年ほど前のものであり、現在は変わっている場合もあります。また、アメリカは州によって大きく事情が違うので、その点ご了承ください。