これは、フィクションでありSFです。けれど、どんな形であれ、夢にあふれた未来図であってほしいと願わずにはいられません。
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長い道程だった。けれど、振り返ればあっという間だったのかもしれない。
あの恐ろしい年から十九年が経った。怒り、絶望し、受け入れ、そして乗り越えるために必要な時間だった。
福島は、そのあいだに大きな変革を遂げた。
一時、無人の町となった地域は、政府に買い上げられて再開発され、生まれ変わった。
日本の新首都としての再出発である。国会および政府の主な機能が移転し、リニアモーターカーで副都心・東京と結ばれたのだ。
東京を出発して数十分、昔ながらの豊かな田畑が広がる車窓に目を凝らしていると、森林と点在する人工湖の美しい景色の向こうから突如、林立する超高層ビルディング群が見えてくる。前世紀の人たちが夢に思い描いていた未来都市そのものだ。
沖合の海上空港からは世界に向かって、ひっきりなしにジェット機が飛び立っているのが見える。
空港の周囲には、南北数十キロにわたって人工島が万里の長城のように連なり、風力発電用の白い風車がずらりと並んでいる。ここで作り出された風力、そして潮力発電が新首都の電力のほぼすべてをまかなっている。それらは防波堤の役割も兼ねており、漁船が漁に出てゆくたびに、スイッチによって開閉する。
そして、あの封印された四角い建物は、今はソーラーパネルに覆われて七色に美しく光り輝き、春には一面の菜の花に囲まれて余生を過ごしている。
「一時は、もう立ち上がれないと思ったよ」
ずっと福島に住み続けている60代の男性は、こう打ち明けてくれた。「でも、無理に立ちあがる必要はなかった。日本じゅうの人が、いや世界じゅうの人々が福島のために最高の英知をひっさげて結集してくれたんだからね。気がついたら、おれたちも一緒に立ち上がっていたんだ。ここは、おれたちの生まれた土地なんだって胸を張ってな!」
「東北はわたしたちの、ふるさとなんです」
関西在住の20代の女性も言う。「わたしは『ふるさと』という言葉を聞くと、なぜか東北の美しい景色を思い浮かべるんです。きっとみんなが心をひとつにして、あの地のために祈り、労してきたからなんですね」
福島新都心は、海外で「THE LUCKY CITY」という名で通っている。「福島」という言葉に「ラッキー」という意味が込められていると紹介されたためだ。
そして私たちは、それが真実であることを知っている。
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一部、改稿しました。
6 thoughts on “FUKUSHIMA 2030”
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こんにちは。
昨日、NHKの特番で、震災から一ヶ月の被災地を映していました。 印象的だったのは、何をどうしていいかわからないと途方に暮れる農業従事者、ビジョンが見えない、ビジョンをくれと怒る漁業従事者たちでした。
命を永らえた次に、立ち上がるために必要なものは未来へのビジョンなのですね。 そんな折りに拝読した[FUKUSHIMA 2030] は、とてもタイムリーに感じました。 来る2030年には、ここに書かれたようなナレーションで始まる特番を見たいものです。
追記)作品中、潮力発電を挙げられたのはいいと思いました。
潮に奪われた地域が、その潮を味方につけて発展する
さまには、人の英知を信じたくなります。
梅(b^▽^)bさん
感想ありがとうございます。このお話は、あちこちのネットニュースに出ていた情報を参考にさせてもらったので、ちょっとドキュメンタリータッチになりました。
何か月、何年後までにという約束が、今はみんな喉から手が出るほど欲しいのだと思います。それまで我慢しようという気持ちだけで励みになりますから。
このお話は実は2020年を最初は想定していたのです。普通の復興ならそれで十分だと思いますが、今回は首都移転というテーマをからめたので、十年延ばしました。
神戸も、町並みは十年で元に戻らないと最初は言われていましたが、復興しました。今は悲観的な言葉よりも、荒唐無稽でもよいから希望のあるビジョンを分かち合えたらと思います。
潮力と風力はソーラーと並んで、もっと発展していってほしい分野です。海洋国の日本は無限の資源をもっと生かしてほしいです。
こんにちは。
原発事故が、なるべく早くそして無事に収束を迎えられますように。
この物語のように、福島が、その土地の人のみならず国内外の誰にとっても、未来を語る上での理想的なビジョンと思えるような・・・そんな場所として復興することを願わずにはいられません。
潮力、風力発電・・・いいですよね。
海といえば、海洋温度差発電なども魅力的なのですが、あの辺りの海では深さがたりなさそうですね。
風力は音が問題になっておりますが、音の少ない小型の風力発電を扱っている会社に「ゼファー」というのがあるのをご存知でしょうか?
私、元魔王の主任が働いていそうな気がしてならないんですが・・・(笑)
新聞に、放射能で作付けできない土地でバイオマスのための作物を作りたい・・・という提案がなされたというようなことも出ていましたね。
本当に、太陽光パネルと風車、そして菜の花が復興の象徴になるような地になれば・・・と思います。
>koharuさん
福島原発のこと、先が見えない日々が続きます。
チェルノブイリは未来のない地になってしまいましたが、福島はそうであってほしくない。あの事故を契機に素晴らしい展望が開けたと言われてほしいのです。
そのためには、元通りではなくベターになってほしいなと。
ただ、福島原発問題の複雑なところは、被災者が東電の社員でいらっしゃること。一概に原発廃止賛成とは言えないのですね。
海洋温度差発電もすばらしいですね。
それに、「ゼファー」! どこぞの魔王が製造ラインを動かしていそうです(笑)。ゼファーは西風、ユーラスは東風という意味ですから、ふたりで協力(ケンカ)すれば、すごい風力が生まれると思いますよ。
菜の花、桜とともに日本の春の原風景ですね。放射性物質を吸収し、しかも、そこから採れる菜種油は安全だと聞きました。バイオディーゼルの燃料としても使用可能。だとすれば一石三鳥です。
こんにちはvv お久しぶりに出てきました。<えへっ
おおう、本当に素敵な未来構想だ!!
チェルノブイリ級と言われてしまうと、あのソ連の原発事故とその後が頭をよぎり、いやー、大変だと思いますが、確かに未来に向かうべく、新しいビジョンが必要なんですね。
予期せぬ大震災の結果でもある福島の現状には、ただただ胸が痛いですが、色んな意味で、未来のエネルギーの在り方などを世界中で考える、よい機会になったとも思います。。。
ただ、こちらでも放射能問題で過剰反応してるし、頭が痛い感じですが…。
そして山仙様!! 御無沙汰しておりますが、あいやー、そんな第一線で御活躍中でしたかっ!!
現場は本当に大変だと思います! お体に気をつけて、どうぞ頑張ってくださいませ。。。
あと、先日はわざわざお返事までありがとうございました。わたしもButapenn先生の名前を拝見し、二カッとしておりました(笑) ああ、原稿が間に合ってよかったです。。。
百花繚乱のチャリティ本、今から拝見するのが楽しみでなりません。
おおお、ミルキーさん、お久しぶりです。
三日もコメントに気付かないでごめんなさい。
原発周辺はちっとも状態が好転せず、長期化するにつれ、いつのまにか「毎時」から「積算」に放射能値の基準が変わっています。
原発周辺の方たちがいわれのない風評被害に会っているかと思うと、つらいです。世界に出れば、今度は日本人や日本の製品が危険視されているというのに。
広島や長崎を経験した日本だからこそ、こういうめちゃくちゃな過剰反応をやめて、冷静な対応をできるはずだと思うのですが。
おっしゃるとおり、この試練を乗り越えて、日本全体でエネルギー問題をはじめとする未来への展望を持つことが大切なことだと思います。
山仙さんは今回いろいろ動いているようですよ。関わりを持つ者たち、ぜひ応援していきたいですね。
チャリティ本はいよいよ5月初旬に形になりそうです。本当にご一緒できてよかったです。楽しみですねー。