小さいとき、沢庵のしっぽが私のおやつだった。巻き寿司は端から切り落とされる穴子のしっぽが一番好きだった。トランプの豚のしっぽが得意だった。 美味しいばかりでない。謎と神秘も備え持つ。ほうき星のしっぽでは、太古のアミノ…
カテゴリー: 500文字の心臓
水溶性
温暖化の影響の中でもとりわけ問題なのが海水面の上昇だ。その膨大な対策費ゆえに、将来にわたって国家間紛争の火種になりかねない。そこでわが水曜会では対策を議論した。 海底地層やマグマに水を吸収させる手法、塩以外の水溶物質…
謎ワイン
ブドウは全滅だった。新世界から持ち込まれた害虫が大発生したのだ。 頭を抱えていたある日、肩から大きなカバンをかけた風采のあがらない男が、私のワイナリーを訪れた。彼は一本の苗木と一本のワインを取り出した。 「これは、新…
もう寝るよ。
ねってはねかし、ねかしてはねる。そんな作業の繰り返しで夜が更けて行く。 この工房を開いてかれこれ十年。同期の多くが既に廃業・休眠している中にあって、いつしか老舗と呼ばれるようになった。なんとなくむず痒い。こうなると2…
笑い坊主
地下五十メートルの地層を発掘中に、今はなき石油由来製の箱から21世紀の古文書が出土した。さる結社の一員の手になるものらしく、古語を専門とする私が解読を依頼された: 「○○が人を幸せにすることは多くの研究に詳らかにされて…
名前はまだない
それを何と呼ぶのか知らない。その名を尋ねるべき相手もいない。ただわかっているのは、それが人から愛でられていることと、私の最も古い記憶において、既に百本を越えていたということのみだ。 人は枝と呼んでいるようだが、意思で…
シンクロ
潮の香りが心地よい。 わずかに残った日輪を見上げながら、僕は隣にいる彼女の肩をきつく抱き寄せる。でも、今見ている世紀のイベントと同じく刹那的なシンクロ。天照大神と月読命が結ばれることはありえない。 闇が訪れた。待ち…
たぶん好感触
同胞の存亡を一身に担って、A国との会談に臨む。 「我が国は常に君たちの味方だ」 バーボン同様に口当たりは良いが、我々をただの金づると見ているだけ。だが背に腹は替えられない。 次のF国とはワインをがぶ飲みして終わった…
納得できない
生物学や地質学の多くの証拠が、世界がかつて一体だった事を示唆している。だが、マントル対流すら知られていなかった当時、大陸を具体的に動かすメカニズムをウェーゲナーは完璧には説明できなかった。理論と証拠の両方が揃ってこその…
頭蓋骨を捜せ
「頭蓋骨が消えています」 医師が俺のX線写真を指差して言った。「最近、高齢者に多いんですよ」 付き添いの娘は眉を吊り上げ、食ってかかる。 「どこに隠したの」 「な、なぜ俺のせいにする?」 「いろんなものを隠して失くす…