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No. 5  冷や汗ものの英語生活

カリフォルニアの話がもう少し続く。なにせ10年以上前のことだから、思い出しているうちに書いておかないと、忘れてしまいそうなのだ。

“Paper or plastic ?”
スーパーのレジでこの言葉を聞いたとき、私は凍りついた。全然理解できなかったのである。向こうのスーパーでは、レジで買ったものを袋に詰めてくれる店員がいる。彼女は「紙袋がいいですか。ビニール袋?」 と聞いていただけなのだ。
大学で専門だったため、英語には多少の自信をもって臨んだアメリカ生活の第3日目。
これが最初の、英語が通じなかった冷や汗ものの体験だった。

多くの日本人駐在員の妻たちは、アダルトスクールと呼ばれる学校で英語を学ぶ。これは公営のカルチャーセンターのようなもので、英語を話せない移民のための無料英会話プログラムを提供してくれるのだ。
しかし、生来あまのじゃくである私は、それにそっぽを向いた。その代わり、同じスクール内のジャズピアノ教室に通い始めたのである。
外国人同士で英会話を学ぶよりも、アメリカ人に混ざって生きた言葉を学びたかった。
それに、音楽は世界共通語。
楽しかった。私ともうひとりの生徒以外は全て60歳以上。歩くのもゆっくりで、農夫のように節くれだった指をしたお爺さんが、鍵盤に向かうと見事にスイングする。
楽譜も読めないというのに、30年代、40年代のクラシックジャズの美しいメロディが紡ぎ出される。すごい、すごいと感激の連続。
日本ではこの世代の人にピアノを弾ける人は少ない。音楽の歴史の違いを感じさせられた。

私たち一家はクリスチャンなので、日曜も現地の教会に行き始めた。
中に足を踏み入れてびっくりしたのは、オール白人だったこと。東洋人は私たちだけ。
あとで知ったのだが、アメリカの教会は、すべてではないが白人系、黒人系、中国系、韓国系と人種によって分かれている場合が多いのだ。言葉の問題もあるだろうし、悲しいけれど、それが人間なのだろう。
それでも私たちはそこに通い続けた。アメリカの社会を深く知りたかった。日本人教会に行けばそのチャンスは失われてしまう、と半分意地になっていた。
でもかなり辛いときもあった。彼らが私たちの名前を覚えてくれるまで1年以上かかった。
礼拝の説教も、5分と集中して聞いていられない。礼拝後のコーヒータイムでさえ、英語で話すのが苦痛であった。
しかし、気づけばいつのまにか、彼らは私たちを一員として受け入れてくれた。ケーキやスープを持ち寄ったり、バザーのお手伝いをしたり、クリスマスには、日本の折り紙で折った鶴をツリーに飾ったりした。
私たち以外の日本人のメンバーも生れた。中国人の牧師が赴任した年もあった。私たちが先駆者と言っているのではなく、そういう時代に巡り合わせたのだろう。今でもその教会は日本人のためのカルチャープログラムを持っていると聞く。

日本への帰国間近なある日、教会の庭掃除をしていると、一緒に掃除していたひとりの女性がこう言った。「あなたの英語はとてもうまくなったわ。最初に教会に来たとき、あなたが何を言っているのかさっぱりわからなかったものね。」
私は自分の英語が上達したのだと勘違いしてとても喜んだ。しかしそうではなかった。
互いに同じ時間を共有すること。互いの違いを乗り越えて分かり合おうと、相手の話を聞くこと。私と彼女はそうしたいと願ったために、言っていることを理解しあうことができたのだ。
私の英語が全然上達していなかったその証拠に。
数日後CDショップに行った私は、店員に向かって何回「バーバラ・ストライサンドのアルバムが欲しい」と言ったところで、わかってもらえなかった。とうとう筆談をするハメになった。
これが4年間カリフォルニアで生活した私の、最後の英語冷や汗体験となった。

 

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