落ちるかと思えば落ちず、ぶつかるかと思えばすれすれでかわし、要所要所で噴煙をたなびかせ、極め付きは分身の術、あっという間に数万、数億の光を作り出して夜空にちりばめる。お立合いの方々、とくとご照覧あれ! 「彗星ブランコの…
ドミノの時代
全ての言動が狩られる時代、始めることは常に難しい。巷には閉塞感が満ちている。だからこそ誰かが最初の一歩を踏み出さなければならない。 そこで俺は、空港カウンターで僕の後ろに並んでいた女に振り向いた。 「好きだ。結婚して…
あおぞらにんぎょ
透き通る冬空に雲のメッセージがぽっかり浮かんだ。 「フク ムリョウハイフ」 さっそく出掛けたところ、福々しい男は「もう福は残ってないねん、服で我慢してくれや」と言って、下半身魚の着ぐるみを舟から放り投げた。おれは男だ…
ペパーミント症候群
そや、後味や。最後をペパーミントよろしく爽やかに終えるのがプロちゅうもんや。 かく言う俺かて、昔はとろけるような甘さにつられて買い、大きく買い足すと味が薄うなって、挙げ句にどかんと大損して慌てて売ったもんや。甘く始ま…
3丁目の女
世界は鏡像のように左右対称だ。例えは粒子と反粒子。右利きと左利き。LアミノにDアミノ、それから出来る右螺旋と左螺旋。宇宙ジンだってそうだ。 せっかく見つけた住処を爆発でなくした宇宙ジンは、子孫を残すべき新天地を求めて…
しっぽ
小さいとき、沢庵のしっぽが私のおやつだった。巻き寿司は端から切り落とされる穴子のしっぽが一番好きだった。トランプの豚のしっぽが得意だった。 美味しいばかりでない。謎と神秘も備え持つ。ほうき星のしっぽでは、太古のアミノ…
水溶性
温暖化の影響の中でもとりわけ問題なのが海水面の上昇だ。その膨大な対策費ゆえに、将来にわたって国家間紛争の火種になりかねない。そこでわが水曜会では対策を議論した。 海底地層やマグマに水を吸収させる手法、塩以外の水溶物質…
謎ワイン
ブドウは全滅だった。新世界から持ち込まれた害虫が大発生したのだ。 頭を抱えていたある日、肩から大きなカバンをかけた風采のあがらない男が、私のワイナリーを訪れた。彼は一本の苗木と一本のワインを取り出した。 「これは、新…
もう寝るよ。
ねってはねかし、ねかしてはねる。そんな作業の繰り返しで夜が更けて行く。 この工房を開いてかれこれ十年。同期の多くが既に廃業・休眠している中にあって、いつしか老舗と呼ばれるようになった。なんとなくむず痒い。こうなると2…
笑い坊主
地下五十メートルの地層を発掘中に、今はなき石油由来製の箱から21世紀の古文書が出土した。さる結社の一員の手になるものらしく、古語を専門とする私が解読を依頼された: 「○○が人を幸せにすることは多くの研究に詳らかにされて…